急性毒性
経口
【分類根拠】 本物質は専門家判断に基づき、範囲ではなく個別の試験データが記載されている(1)、(2)のEPA Pesticede及びEFSAのLD50値を優先的に採用し、区分4とした。
【根拠データ】 (1)ラットのLD50値:302.6 mg/kg(雄)、311.5 mg/kg(雌)(EPA Pesticide(2004)) (2)ラットのLD50値:614 mg/kg(EFSA(2006))
【参考データ等】 (3)ラットのLD50値:220-720 mg/kg(JMPR 167(2001)) (4)ラットのLD50値:200–850 mg/kg(Canada(2009)) (5)22件のLD50値(EHC 153(1994)、IARC 12(1987)、産衛学会勧告(1989)、ACGIH(7th, 2007 ))の報告がある。
経皮
【分類根拠】 (1)~(3)より、区分外(国連分類基準の区分5又は区分外に相当)とした。新たな情報源の使用により、旧分類から区分を変更した。
【根拠データ】 (1)ラットのLD50値:> 4,000 mg/kg(産衛学会勧告(1989)、ACGIH(7th, 2008)、EHC 153(1994)、Canada(2009)) (2)ラットのLD50値:> 2,000 mg/kg(JMPR 167(2001)) (3)ウサギのLD50値:> 2,000 mg/kg(EPA Pesticide(2004)、EHC 153(1994)、Canada(2009))
吸入:ガス
【分類根拠】 GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。なお、本物質の蒸気圧は非常に低いため(<0.005Pa(25℃)(Merck))、旧分類に記載されているデータは、ミストによる試験と考えられる。
吸入:粉じん及びミスト
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分4とした。
【根拠データ】 (1)ラットのLC50値:2.43 mg/L(雌)(4時間)((食品安全委員会 農薬評価書(2018)、EFSA(2006)) (2)ラットのLC50値:>3.4 mg/L(4時間、3.4 mg/Lで2/5例が死亡)(EPA Pesticide(2004)、Canada(2009))
【参考データ等】 (3)ラットのLC50値:>4.26 mg/L(雄)(ばく露時間不明)((食品安全委員会 農薬評価書(2018)) (4)ラットに本物質エアロゾル0.792 mg/Lの4時間ばく露で雌1/5例が死亡したとの報告がある(EHC 153(1994))。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分外とした。なお、一過性の紅斑が見られたとの報告(3)もあるが、ばく露時間及び観察期間が不明であり、分類判断には用いなかった。分類区分は分類JIS(JIS Z7252)に準拠することになったため、旧分類の区分3を区分外に変更した。
【根拠データ】 (1)ヒトへのばく露では、比較対照試験において皮膚刺激性を示さなかったとの報告がある(ACGIH(2007))。 (2)ウサギを用いた皮膚刺激性試験で刺激性を示さなかったとの報告がある(EPA Pesticide(2004))。
【参考データ等】 (3)ウサギを用いた皮膚刺激性試験で一過性の紅斑が見られたとの報告がある(EHC(1994))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)、(2)より、回復性のある弱い刺激性を有すると判断し、区分2Bとした。
【根拠データ】 (1)ヒトで軽度の眼瞼浮腫と角膜刺激が見られたが回復は速やかであったとの報告がある(PIM 147(1997))。 (2)ウサギを用いた眼刺激性試験(溶液濃度別に4件)において、損傷なし(25%溶液)、1/5例で軽度の損傷(10%溶液)、結膜に刺激性が発生したが2日後に回復(原液)、6/6例で結膜刺激と2/6例で一過性虹彩炎が発生したが3日後に回復(43.4%溶液)したとの報告がある(EHC 153(1994))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 本物質は皮膚感作性を示さないことを示唆する動物試験データ(2)~(4)も得られているが、皮膚感作性を示唆するヒトデータ(1)もあり、感作性の有無を判断できる十分な証拠が得られておらず、分類できないとした。
【参考データ等】 (1)ヒトへの偶発的なばく露によって皮膚発疹が観察されたとの報告がある(IPCS PIM 147(Accessed Jul. 2018))。 (2)モルモットを用いた皮膚感作性試験で本物質(0.25%メチルセルロース溶液)を適用したところ、皮膚感作性は見られなかったとの報告がある(EHC 153(1994))。 (3)複数の動物試験において皮膚感作性は見られなかったとの報告がある(IPCS PIM 147(Accessed Jul. 2018))。 (4)本物質は皮膚感作性を示さないとの報告がある(EPA Pesticide(2004))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)、(2)より、ガイダンスに従い分類できないとした。
【根拠データ】 (1)In vivoでは、マウスの優性致死試験、マウスの骨髄細胞を用いた小核試験、ラット及びハムスターの骨髄を用いた染色体異常試験で陰性である(EHC 153(1994)、食品安全委員会 農薬評価書(2018))。 (2)In vitroでは、細菌を用いた復帰突然変異試験で陰性(一部陽性あり)、枯草菌を用いたDNA修復試験で陰性、哺乳類培養細胞を用いた遺伝子突然変異試験で陰性、同染色体異常試験及び姉妹染色分体交換試験で陽性の報告がある(Health Canada(2009)、EFSA(2006)、EHC 153(1994)、食品安全委員会 農薬評価書(2018))。
発がん性
【分類根拠】 発がん性に関して、利用可能なヒトを対象とした報告はない。 (1)~(3)より、既存分類はなされているものの、動物2種で多臓器で悪性腫瘍が認められていることを踏まえ、区分1Bとした。
【根拠データ】 (1)マウスに本物質100~8,000 ppmを2年間混餌投与した発がん性試験で、1,000 ppm以上の雄で肝臓及び脾臓の血管肉腫、腎臓では8,000 ppmの雄で尿細管腫瘍、肝臓では8,000 ppmの雌で肝細胞腫瘍の有意な増加が認められた(JMPR(2001)、食品安全委員会 農薬評価書(2018))。 (2)ラットに本物質250~7,500 ppmを2年間混餌投与した発がん性試験では、7,500 ppmの雌雄で膀胱の移行上皮乳頭腫及び移行上皮がん、雄で甲状腺の濾胞細胞腺腫の有意な増加が認められた(JMPR(2001)、食品安全委員会 農薬評価書(2018))。 (3)既存分類では、IARCはグループ3(IARC Suppl. 7(1987))、ACGIHはA4(ACGIH(7th, 2008))、EU CLPはCarc. 2、EPA OPP RED(Office of Pestcide Program, Reregistration Eligibility Dec.ision(2008))はL(Likely to be carcinogenic to humans)に分類している。
生殖毒性
【分類根拠】 (1)より、ラットを用いた2世代繁殖毒性試験では、児動物の生存率低下が認められたが統計的な有意差は見られていない。(2)の発生毒性試験の結果でも催奇形性はみられていない。JMPRは各世代ともに親動物の生殖能及び児動物への影響はみられず、本物質は生殖能へ悪影響を及ぼさないと結論付けている(JMPR(2001))が、既知見からは区分を付与すべき明確な根拠は得られず、分類できないとした。
【根拠データ】 (1)ラットを用いた経口経路(混餌)による2世代繁殖毒性試験では、親動物は300 ppm以上の雄、及び1,500 ppmの雌の投与群に体重増加抑制等が認められた(JMPR(2001))。F1児動物は300 ppm以上の投与群に生存率低下が認められたが、統計的な有意差はない(JMPR(2001)、食品安全委員会 農薬評価書(2018))、(JMPR(2001))。 (2)妊娠6~20日のラットに強制経口投与した発生毒性試験では、30mg/kg/dayの投与により母動物に体重増加抑制や流涎、30mg/kg/dayの投与により胎児に低体重や未骨化が認められたが、催奇形性はみられていない(JMPR(2001))。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
【分類根拠】 (1)~(2)のヒトの知見に基づき、区分1(神経系)とした。
【根拠データ】 (1)本物質はヒトでコリンエステラーゼ活性を阻害し、神経系を過剰刺激し、吐き気、めまい、錯乱をきたし、高用量ばく露では呼吸麻痺を生じ死亡に至ると記述されている(EPA Pesticide(2004))。 (2)ヒトで本物質250 mg/kgを経口摂取した症例において20分後に上腹部痛及び大量の発汗を生じたとの報告があるほか、本物質420 mg/kgを経口摂取した症例においては、85分後に視覚障害、虚弱、大量の発汗、頭痛を生じたとの報告がある(EHC 153(1994))。 (3)ラットに10-125mg/kgを経口投与した単回経口ばく露させた急性神経毒性試験において、区分1の範囲の125mg/kgの投与群で振戦、運動失調、歩行不良、自発運動量減少、覚醒レベル低下等の症状が見られたとの報告がある(JMPR(2001))。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分1(神経系)とした。なお、腎臓についてはヒトの症例があるが一例のみであること、肝臓および腎臓については、(5)の食品安全委員会の報告を優先し、実験動物で区分2以下の用量では影響がみられなかったとの報告があることから標的臓器から除外した。
【根拠データ】 (1)本物質の10%製剤に8ヵ月間吸入ばく露された75歳男性がコリンエステラーゼ阻害作用に関連した症状を発症したとの報告(EHC 153(1994))があり、この症状はHSDBによれば頭痛、記憶障害、筋肉虚弱、筋肉の線維束性筋収縮、食欲不振、体重減少で、ばく露の終了により主症状は改善したと記述されている(HSDB(Accessed Jul. 2018))。 (2)本物質が慢性的な神経系又は精神的障害の原因となったみられる5つの症例報告があるとの記述がある(EPA Pesticide(2004)(IRED))。
【参考データ等】 (3)ヒトボランティアに本物質を0.06又は0.13 mg/kg/dayで6週間経口摂取させた結果、高用量群で尿中アミノ態窒素のクレアチニン比の上昇がみられ、近位曲尿細管におけるアミノ酸の再吸収阻害の可能性が示唆されたとの報告がある(EHC 153(1994)、産衛学会許容濃度の提案理由書(1989)、IPCS PIM147(Accessed Jul. 2018))。 (4)ラットに2年間混餌投与した試験において、400 ppm(15.6 mg/kg/day、区分2の範囲)投与群で腎尿細管のびまん性混濁腫脹(1年間の中間屠殺時、及び2年間投与終了時)、及び肝細胞索の混濁腫脹(2年間投与終了時)の頻度増加が認められた(IRIS(1987))。 (5)ラットに250~7,500 ppmを2年間混餌投与した試験においては、区分2超の7,500 ppm(ガイダンス値換算:350(雄)、485(雌) mg/kg/day)以上において、肝細胞肥大および腎盂上皮過形成、膀胱の移行上皮過形成、移行上皮乳頭腫、甲状腺の濾胞細胞肥大、濾胞細胞腺腫(雄のみ)がみられたが、区分2の範囲の1,500 ppm(ガイダンス値換算:60.2(雄)、78.6(雌) mg/kg/day)では有意差がなかったとの報告がある(食品安全委員会 農薬評価書(2018))。
吸引性呼吸器有害性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。