急性毒性
経口
ラットのLD50値は640 mg/kg(環境省リスク評価 第3巻 (2004))および1070 mg/kg(PATTY (5th, 2001))に基づき、区分4とした。GHS分類:区分4
経皮
ウサギのLD50値は130 mg/kg (環境省リスク評価 第3巻 (2004))に基づき、区分2とした。GHS分類:区分2
吸入:ガス
吸入 (ガス):GHSの定義における固体である。GHS分類:分類対象外
吸入:蒸気
吸入 (蒸気):データなし。GHS分類:分類できない
吸入:粉じん及びミスト
吸入 (粉塵・ミスト):データなし。GHS分類:分類できない
皮膚腐食性及び刺激性
ウサギの皮膚に24時間の閉塞貼付した試験で強い刺激性(highly irritating)との結果(IUCLID (2000))が得られている。さらに、本物質は皮膚一次刺激性が最も強いことで知られている物質の一つであり(Contact Dermatitis (Frosch) (5th, 2011))、ヒトで接触性皮膚炎を起こし、かゆみ、水疱性丘疹及び皮膚の剥離等の症状がみられる(環境省リスク評価 第3巻 (2004))との記述もあり、区分2とした。GHS分類:区分2
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ウサギの眼に適用した試験で強い刺激性(highly irritating)との結果(IUCLID (2000))に加え、ヒトの眼に対し重度の刺激物である(HSDB (2003))との記述に基づき、区分1とした。 GHS分類:区分1
呼吸器感作性
モルモットを用いたin vivo免疫学的試験において、吸入惹起処置で呼吸器アレルギーを誘発せず、同種細胞親和抗体の力価が低かったこと、さらに引き続き行われた試験では本物質が陰性対照として用いられ、投与動物で高力価の特異抗体の誘発がみられなかったこと、さらにマウスのIgE試験で陰性の事実から、本物質が呼吸器感作性を有しないことを納得し得る証拠があると結論されている(ECETOC TR 77 (1999))が、現時点では呼吸器過敏症試験用として認められた動物モデルはないことから、ガイダンスに従い分類できないとした。GHS分類:分類できない
皮膚感作性
モルモットを用いたマキシマイゼーション試験とビューラー試験、マウスの局所リンパ節試験でいずれも陽性の結果(ECETOC TR 77 (1999))があること、本物質は一般に皮膚感作性試験の陽性対照として用いられている(EHC 149(1993)、JECFA 855(1996)、JMPR 930(1997))こと、ヒトでの職業ばく露またはヒトに適用した試験で、皮膚感作性を示す多数の報告がある(環境省リスク評価 第3巻 (2004)、ECETOC TR 77(1999)、DFGMAK-Doc.13 (1999))こと、さらにContact Dermatitis (Frosch)にはアレルギー物質として掲載されている(Contact Dermatitis (5th, 2011))こと、以上の知見に基づき区分1とした。 GHS分類:区分1
生殖細胞変異原性
in vivo試験としてマウスの腹腔内投与によるアルカリ溶出試験(in vivo遺伝毒性試験)で用量依存的なDNA損傷の増加を示し、結果は陽性(IUCLID (2000))、in vitro試験として、エームス試験で強い陽性結果(安衛法 変異原データ集 補遺3版(2005))、およびV79細胞を用いた染色体異常試験、HGPRT試験でも陽性の結果(IUCLID (2000))が報告されていることから専門家の判断により区分2とした。また本物質は、労働安全衛生法第57条の3に基づき変異原性が認められた既存化学物質である。なお、in vivo試験の優性致死試験で陰性との記載(DFGMAK-Doc.21 (2005))があるが、試験の詳細は不明である。GHS分類:区分2
発がん性
ラットおよびマウスに2年間混餌投与(用量320、800、2000 ppm)によるがん原性試験において、ラットでは雄に腎細胞腺腫、および雌に乳腺の腺癌の発生増加が認められたが、マウスの雌雄には腫瘍の発生増加は認められず、本物質のマウス雌雄に対するがん原性は示されなかった(厚労省がん原性試験 (1992))。さらに、雄ラットおよび雌雄マウスに18ヵ月間混餌投与(250~2000 ppm)した試験では、両動物腫とも対照群と比べ腫瘍発生率の増加はなかった(IUCLID (2000))と報告されている。以上の得られている結果から、本物質の発がん性に関して結論付けられないため「分類できない」とした。 GHS分類:分類できない
生殖毒性
ラットに経口投与した反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験(OECD TG 422、GLP)において、主な一般毒性学的変化として、30 mg/kg 群の雌雄で胃の病変(前胃の扁平上皮の過形成、炎症性細胞浸潤など)が認められたが、生殖および発生に及ぼす影響としては、親動物の一般状態、交尾、受胎、妊娠、分娩など性機能・生殖能の指標、仔動物では、外表、一般状態、出生率、性比、新生児の4日生存率など仔の発生に関する指標に被験物質に起因する変化は認められなかった(経産省生殖試験 (Access on Apr. 2012)、List2相当)。したがって、性機能・生殖能に対する悪影響は見出されなかったが、一方、妊娠期間中のラットに0.13 mg/m3の濃度を吸入ばく露した試験で着床後の吸収胚の増加がみられたと報告されているが、詳細不明に加え対照群の設定についても報告されていないとの記載(環境省リスク評価 第3巻 (2004))もあり分類には採用せず、仔の発生に及ぼす影響についてはデータ不十分なため、「分類できない」とした。 GHS分類:分類できない
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
ヒトへの影響として、吸入及び経口暴露では唇、爪及び皮膚のチアノーゼ、めまい、頭痛、息苦しさなどの急性毒性症状が現れ、また、血液に影響を与え、メトヘモグロビンを生成する可能性がある(環境省リスク評価 第3巻 (2004))との記載がある。動物試験では、ラットに640 mg/kgを経口投与した結果、血中でのメトヘモグロビン産生が認められ、30分後20%、1時間後17%、2時間後12%を示し、24時間後のみハインツ小体が観察されたと報告(IUCLID 2000))されており、ラットによる試験の用量は区分2のガイダンス値内であるが、ヒトの情報に基づき区分1(血液系)とした。また、ヒトで本物質のばく露により眼、気道、皮膚に刺激を与えるとの記載(環境省リスク評価 第3巻 (2004))もあることから区分3(気道刺激性)とした。なお、ヒトで本物質のばく露により、頭痛、息苦しさ、吐き気、嘔吐など神経系と同様の症状が現れるが、詳細が不明であるため分類の根拠としなかった。GHS分類:区分1(血液系)、区分3(気道刺激性)
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
ヒトの本物質による慢性中毒では、霧視、中心暗点、視野狭窄を伴う球後視神経炎が徐々に現れ、視神経炎も伴い、例外的には眼の萎縮~瞳孔反応の調節障害に至る可能性があり、また、慢性中毒による球後視神経炎は末梢神経炎と関連があり、脚の不全麻痺および足の灼熱感をもたらす(HSDB (2003))。以上のヒトでの知見(List 2)に基づき、区分2(神経系)とした。一方、ラットに1.1 mg/m3の濃度で4ヵ月間吸入ばく露(粉塵;4時間/日、5日/週)した試験で、対照群の設定についての記載はないが、ばく露後2~3週間で行動異常、可視粘膜の充血、呼吸困難が現れ、23匹中4匹が死亡し、4ヵ月間のばく露後には、ヘモグロビン濃度及び赤血球数の減少、スルフヘモグロビン血症もみられた(環境省リスク評価 第3巻 (2004))との報告があり、用量は区分2のガイダンス値内であることから区分2(血液系)とした。 GHS分類:区分2(神経系、血液)
吸引性呼吸器有害性
データなし。GHS分類:分類できない