急性毒性
経口
GHS分類: 区分2
ラットのLD50値として、2、2.6、6.85、7、13.7、22 mg/kg の6件の報告がある。2件が区分1に (JMPR (1995))、4件が区分2に該当する (JMPR (1995)) ことから、件数の最も多い区分2とした。
なお、本物質は専門家判断に基づき、情報源としてJMPRのLD50値を優先的に採用した。
経皮
GHS分類: 区分2
ラットのLD50値として、73 mg/kg (雌雄) (JMPR (1995)) の報告に基づき区分2とした。ガイダンスの改訂に伴い、区分を見直した。
なお、本物質は専門家判断に基づき、情報源としてJMPRのLD50値を優先的に採用した。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外
GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 区分1
ラットのLC50値 (4時間) として、0.03 mg/L (雌雄) (JMPR (1995)、32~84 mg/m3 (雌雄不明) (ACGIH (7th, 2003))、84 mg/m3 (雄) (ATSDR (2014)、24 mg/L (雌) (JMPR (1995)、77~91 mg/L (雄) (JMPR (1995)) の5件の報告がある。1件が区分1に、1件が区分1~区分2に、1件が区分2に、2件が区分外に該当することから、有害性の高い区分を採用し区分1とした。
なお、この値は飽和蒸気圧濃度 (0.00897 ppm (0.00011 mg/L)) より高いため、ミストの基準値を適用した。ガイダンスの改訂に伴い、区分を見直した。
なお、本物質は専門家判断に基づき、情報源として、JMPR、ACGIH、ATSDRのLD50値を優先的に採用した。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分外
ウサギの皮膚刺激性試験 (2試験) では、ごく軽度~軽度の刺激性 (紅斑、浮腫) が認められたが、72時間後には回復した (いずれもJMPR (1995)) ことから、区分外 (国連分類基準の区分3) とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分2B
本物質をウサギの眼に適用した試験において軽度の刺激性がみられたとの報告 (JMPR (1995)) に基づき、区分2Bとした。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。なお、モルモットのマキシマイゼーション法 (Magnusson-Kliegman法) で、感作性は認められなかったとの報告がある (ACGIH (7th, 2016)、JMPR (1995)) が、試験方法等詳細について不明であるため、分類に用いるには不十分なデータと判断した。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない
ガイダンスの改訂により区分外が選択できなくなったため、分類できないとした。すなわち、in vivoでは、マウスの優性致死試験、マウスの精原細胞を用いた染色体異常試験、マウスの骨髄細胞を用いた小核試験、染色体異常試験でいずれも陰性である (JMPR (1995)、ATSDR (2014))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験、染色体異常試験、姉妹染色分体交換試験でいずれも陰性である (JMPR (1995)、ATSDR (2014))。
発がん性
GHS分類: 区分2
ヒトの情報はない。実験動物ではラットに46週間又は67週間混餌投与した試験において、副腎皮質の腺腫/がんが雌雄に (ACGIH (7th, 2003)、IRIS (1988))、また甲状腺濾胞腺腫と膵島細胞がんの増加傾向が雄に認められ (IRIS (1988))、EPAはこれを根拠にグループC (possible human carcinogen: 区分2相当) に分類した (IRIS (1988))。一方、ACGIHはIARCがこの試験は投与期間が短く、他のラット、マウスの混餌投与試験で投与に関連した腫瘍発生頻度の増加がみられていないことから、本物質の実験動物での発がん性は評価できないと結論した (IARC 30 (1983)) ことを引用して、A4に分類した (ACGIH (7th, 2003))。しかし、IARCは最新の発がん性評価で本物質の実験動物での発がん性の証拠は十分であると結論し、グループ2Bへと分類を変更した (IARC 112 (in prep., Access on June 2015))。以上、本物質の既存分類結果の経緯を踏まえ、本項は区分2とした。
生殖毒性
GHS分類: 区分2
ラットを用いた経口経路 (混餌) による3つの生殖毒性試験のうち、1つはF0、F1雌親動物に振戦が、他の1つはF0、F1親動物に血漿・赤血球・脳内コリンエステラーゼ活性の減少がみられる用量まで投与されたが、児動物には軽微な影響 (哺育期間中、又は離乳時の体重低値) がみられたに過ぎない (JMPR (1995)、ACGIH (7th, 2003))。しかし、他の1試験では親動物には20 ppm まで毒性所見は認められなかったが、20 ppm 群では妊娠動物数の減少 (3/6例)、10 及び 20 ppm でF1出生児の生後死亡率の高値が認められた (Barnes & Denz (1951)、IARC 30 (1983)、ACGIH (7th, 2003))。一方、妊娠ラット及び妊娠ウサギを用いた器官形成期強制経口投与による発生毒性試験ではラット、ウサギとも死亡例、体重増加抑制が発現する高用量においても胎児に有意な毒性所見はみられなかった (JMPR (1995)、ACGIH (7th, 2003))。
以上、ラット混餌投与による3つの生殖毒性試験のうち、1試験で親動物に毒性症状が発現しない用量で妊娠率低下、出生児の生後死亡率の高値が認められた。しかし、他の2試験では親動物の一般毒性影響で児動物に軽微な影響がみられたのみであったことから、本項は区分2が妥当と判断した。